【3】CD Extra
−Extraができるまで
●プロフォースシステム:滝本英毅氏に聞く

第3回のゲストは,国内のEnhanced CDの実に8割くらいの制作に関わっている,福岡のプロフォースシステムの滝本氏と田村氏だ。ざっと挙げてみても,ROM部分を制作したものとしては,Dobの「LaLuLaRoo」,Debの「FaLaLeRa」,ドリームズ・カム・トゥルーの「Love Unlimited」,貴水博之の「Labyrinth」,技術監修したものとしては,ファンク・ザ・ピーナツの「太陽に口づけを!」,Smartの「月だけが知っている」などがある。とにかく,国内でEnhanced CDをつくる人の8割くらいが,プロフォースを頼って福岡まで飛ぶのだ。ということで,われわれも福岡まで飛び,Enhanced CDについて教えを乞うことにした。


Win版CD Extraにはなぜ95専用が多いのか

──今日はCD Extra(*1)づくりのノウハウを教えていただきたいと思います。CD Extraには,Mac/Winハイブリッドも多いわけですが,Windowsについては95専用が多いですね。95でなければならない何かがあるわけですか。

滝本氏■ドライバの問題があるわけです。3.1までは,基本的にはマルチセッションのCD-ROMをマウントしないんです。95のドライバでも,古いCD-ROMドライブではダメだったりするんですね。

──CD ExtraでMac/Win以外のプラットフォームをサポートする可能性はあるんですか。

滝本氏■あの,Pippin用のCD Extraはまだですか(笑)。

──厳しい質問ですね(笑)。Pippin用にはPippinシステムが必要なので,まずそこがネックになります。でも,バンダイもその問題は認識していて,取り組んでいます。
 すみません,インタビュアーは私です(笑)。オーサリング作業について教えてください。オーサリングするツールとしては,アプリケーション上でCD-DAの音を持ってこれるものがいいわけですよね。Oracle Media Objectもそうですし,Director用のXCMD(*2)にもいろいろあります。

滝本氏■ええ。ただ,うちの場合は,そういったツールをDirector上でつくったんですよ。だから,あまり買うメリットは感じていません。独自でつくったもののほかには,アップルのXobjectとかも使っています。

──DirectorのWindows版にはバグが多いんでしょうか。

滝本氏■いや,それをバグととるか仕様ととるかで違ってくるんですよ(笑)。

田村氏■うちがどうしてDirectorを使うかっていうと,そこで何が起きるか,わかってるからなんです。MacintoshとWindowsの両方について起こり得ることをわかったうえで設計しているから,ハイブリッドでつくれるんです。片方しか知らないと難しいでしょう。


滝本英毅
制作部マネジメントディレクタ。
プログラミングを実際に担当する,業界でも有数の徹夜系プログラマー

ハイブリッド化の第一関門
ムービーをQT/AVIのどちらにするか

──ムービーについてはどうしていますか。WindowsではAVI(*3)とQuickTimeという選択肢があると思いますが。

滝本氏■それが場合によって違うんです。Extraの場合は容量が問題になるんですよね。残された容量(*4)はわずかですから。理想をいえば,MacintoshはQuickTime,WindowsはAVIと2本立てでやるのがいいんですが,容量の問題でQuickTimeだけにすることもあります。

田村氏■現状では,国内ではQTとAVIの2本立てのものが多いんですよ。なぜかというと,WindowsでQuick Timeを使うときは,インストールすることになるわけですよね。ところがQuickTime for Windowsには英語のインストーラしかないんです(*5)。コンピュータに慣れている人だったらわかると思いますが,Extraの対象は本当に一般の人なんですよ。

滝本氏■ユーザーとしても,CD Extraっていうのは,手軽なところがいいわけじゃないですか。インストールなんてやりたくないですよ。

──Windows上ではAVIのムービーのほうがQuickTimeよりきれいだっていう人もいますが,どうですか?

滝本氏■私はどっちもどっちだと思いますよ。256色でムービーを表示させようとすると,ディザ(*6)のかかり方は,AVIのほうが汚いですね。

──速度の問題は?

田村氏■滝本が注意してやっているのは,やはり,重い,遅いというところがなくなるようにしているという点です。

滝本氏■私はイライラするのが嫌いなんですよ。だから,なるべくユーザーもイライラさせないようにつくっています。特にローディングには気をつかっています。ローディングがコントロールできないと,曲を鳴らしながらデータで何かすることができなくなるんです。

──ということは,必ず曲がない部分でローディングするっていうことですね。では,ローディングのタイミングを一番重視すると。

滝本氏■いや,速度を速くという意味では,まずキャストを小さくするっていうところがやはり重要ですね。

──CD Extraには,マウントするまでの時間が長いものがありますね。

滝本氏■ええ。CD Extraっていうのは,普通のCD-ROMやオーディオCDとはフォーマットが違って,XA(*7)なんですよ。その影響を受けているんじゃないでしょうか。「ドライバががんばってマウントしている」という感じだと思うんです。


田村繁幸
プロデューサー。自社タイトルだけでなく,Enhanced CD普及のための「仕組みづくり」に努めている

誰にも見られないExtraデータは
規格を満たすためだけに必要なもの

──Extraの部分のデータ(*8)はどう作成していますか。

田村氏■今までは作成ツールがなかったので,データだけを渡して,レコードメーカーから直接工場に入れてもらっていました。

滝本氏■でも,Toast CD-ROM PRO 3(*9)が登場したことで,ようやくそれができるようになったんですよ。これを使えば,ハイブリッドのマルチセッションのディスクをXAフォーマットでそのままつくることができます。

──それで焼くことはできますが,そのExtra部分のデータをつくるためのツールがありませんでした。アップルのHyperCardベースのツール(*10)があるようですが。

滝本氏■Windows版のツールというのは聞いたことがないですね。Extra部分についてはMacintoshでオーサリングするか,工場への「データ渡し」になるんでしょうね。

──しかし,誰にも見られないデータをつくるわけですよね。将来見られる日はくるんでしょうか(笑)(*11)
 データを入れるアドレスはどうなっているんですか。

滝本氏■第2セッションの相対アドレス(*12)で決め打ちになっています。

流通経路がCD-ROMとは違うため
テスティングに時間がとれない

──では,テスティングについて聞きたいと思います。

滝本氏■テストと一口にいっても,焼く前の段階のベータテストと,CDに焼いてから動作を確認するプルーフテストがあります。ベータテストの段階では,データはハードディスクに入れたままで,DAをCD-ROMドライブに入れて,動くかどうかを試すわけです。うちではまだToast 3を使っていないので,ハイブリッドとXAが焼けませんから。

田村氏■ただ,その段階でオーディオCD部分が完成しているということは,まずないんですよ。
 レコード会社側にとっては,「CD Extraにするために発売が遅れる」ことがあってはいけないわけですから,発売日を遅らせることもできません。かといってExtraにするためにDAのマスターを早く仕上げるということもないんです。つまり,DAのマスターが上がったら,すぐにそれにCD-ROMデータを合わせてプレスしなければならない(笑)。あくまでもオーディオCDの流通なんですよ。だからテストではダミーを使うしかないんです。

滝本氏■そのへんは大変です。だから,あとで修正できるようにするツールを独自でつくっているわけなんです。

──では,そのあとのプルーフテストですが,Windowsのチェックは大変じゃないですか。

滝本氏■一番Windows側で困るのは,バリエーションが多い,ということですよね。Macintoshのほうもこれからはそうなっていくんでしょうけど。テストについては,各社のテスティングルームも使わせていただいています。

田村氏■プルーフについては,先ほどの理由で,本当にテストする時間がありません。枚数もCD-ROMとはまったく違いますし。何百万枚ともなると,プレスするだけで2カ月もかかってしまうんですよ。


田中太郎
ソノランブルー代表取締役。 QuickTimeムービー編集ツール「MovieScript」の制作,Pippin関連のデベロッパーサポートとしても活躍している。 ソノランブルーのページ

大容量のDVDとは「別もの」として
手軽なCD Extraは残る規格

──ここまでの作業を考えると,アマチュアの人がつくるのは難しいですかね。

田村氏■いえ,Extraデータにしても,すべて焼き込まなくてもいいわけです。工場へのExtraデータの入稿は,データだけを渡せばいいわけですから,アマチュアでもできますよ。CD Extraは規格ですから,個人で楽しむ場合はミックストモードでも何でもいいでしょうし。工場側でメディアのコンバートもやってくれます。

滝本氏■それに,私たちもノウハウを隠すつもりはありません。CD Extraをつくりたいっていうところがあれば一緒にやりたいですね。アマチュアの人もつくれるような仕組みをつくりたいとは思っています。

──僕は,Enhanced CDが過渡期のものではないかとも思っているんです。あとにはDVDも控えていますし。

田村氏■ただ,DVDのあの大容量をどう使うかっていうことがありますよね。つくるほうは容量を埋めるだけで大変だし,受け手も困るかもしれません。

──それではCD Extraは今後……。

田村氏■絶対残りますよ。CD-I(*13)の場合とは違って,もともとあるハードウェア上で動くものですから。DVDの容量を埋めるというのも予算がかかるはずですし。みんなExtraになっていけばいいと思うんですよね。
 オーディオCDっていうのは,その場限りのものではなくて,何度も聞かれるものですよね。Enhanced CDについても,あとあとまで残るものをつくりたいと思っています。

──ありがとうございました。これからも徹夜しながらがんばってください。じゃあ,中州でExtraしますか(笑)!



●対談を終えて▼

CD Extraの制作が「いばらの道」ではないということをわかっていただけただろうか。Toastなどの制作ツールも揃ってきている。あとはExtraデータが読める家電レベルの専用プレイヤーが欲しいところだ。アップルサイドはぜひ,QuickTime for Windowsを日本語環境に対応させ,「AppleCDオーディオプレーヤ」をExtraデータが読み込める仕様にしてほしい。それによってMacintoshにアドバンテージを残しておけるのだから。  (MacUser/Japan)