【8】Computer Graphics
−ソフトはカスタマイズして使う
●CG作家:原田大三郎氏に聞く

CG作家としての原田大三郎氏についてはとくに説明する必要もないだろう。坂本龍一氏のコンサートの映像担当として,NHKの「人体」のCG作者として,あるいは映画「スワロウ・テイル」のCG作者としてあまりにも有名だ。それにとどまらず,自らがVideoPalletteというビデオ加工ソフトを世に送り出しているという点もスゴい。今回は,そんな原田氏に「ものをつくり上げる」ことについてのこだわりを,アーティストとして,そして,ソフトウェア作家として語っていただいた。

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原田大三郎
米国在住の押しも押されぬCG作家。現在は(株)ループドピクチャーの取締役。今回は坂本龍一氏のコンサートで映像を担当するため来日。コンサート当日にお話しをうかがった。

坂本龍一ツアーの映像は
すべてリアルタイムで操作

──今回,東京に来られたのは教授(*1)のツアーですよね。

■そうです。教授とはここ10年くらい一緒にやってます。あの人は映画音楽をやるくらいだから,映像や音に関して理解力があるんですよ。今回は70人くらいのフルオーケストラと一緒にやるコンサートなんですけど,映像は,教授の後ろにあるでかいスクリーンに画面を出していくという感じです。今回は教授と指揮者にデータスーツを着てもらって,CGをリアルタイムで動かすという仕掛けがあります。全部リアルタイムで操作しています。

──データスーツというのはどういうものですか?

■教授の着てるスーツの肩とかひじとかに,ヤマハのセンサーが仕込まれていて,腕を曲げた情報なんかがデータとして送られてくるわけです。

──なるほど,その動きが映像に影響してくるわけですね。

■そうです。それからノンリニア(*2)のQuickTimeの映像が流れたりもします。DeskStudioで取り込んだいろんな素材が溜めてあって,操作に失敗したときにそこからムービーを流してます。そういう使い方をするのにいいんですよ,Macintoshは。

──リアルタイムで操作しているということですが,どう実現させているのか教えてください。

■普通,音と映像をシンクロさせようっていうことになると,機械的にやるのがほとんどなんですよ。だからシーケンサでMIDIデータを流して同期させることが多い。
 ところが,僕と教授はずっと昔からやってきて,そういうのに飽きちゃったんです。教授はどんどんライブな方向に移行している。じゃあ,映像をどうシンクロさせるかというと,その場の音に気持ちをシンクロさせてリアルタイムでやる方法しかないんです。機械的にシンクロできないもの,つまりイメージのシンクロ,感情のシンクロがあるわけですよ。
 実は,今回はリハーサルするまで音を聴いたことがなかったんです(笑)。それまでは電話とメールで,「この曲はどういう感じ?」「これは暗い」「これは静か」っていうやりとりがあっただけです。それをもとにこちらで映像を用意していって,リハーサルで初めて「ああ,こういう曲だったんだ」となるわけです。それからその場で映像の組み合わせとかを考えます。だから,リハーサルをやるたびに映像の扱い方が変わっていく。結局,その場の感情やノリでどんどん変わってきますね。

プログラマーと組まないと
使いやすいツールがつくれない

──素材はどれくらい用意してきたんですか?

■同時に走るのは8,9くらい。シリコン(*3)でリアルタイムで動く素材は20何種類かですね。その操作はMIDIのキーボードでやります。この鍵盤を押すとこの画像が出る,というのが全部決まっています。それと,MIDIにはベロシティ(*4)がありますから,強く叩くと一瞬で変わって,やさしく弾くとゆっくりとリゾルブしていく,というように設定してあります。

──どういう経緯でMIDIキーボードを使うことになったんですか?

■普通のスイッチャーを使って「このスイッチを変えて」というのはわずらわしいし,鍵盤っていうのは,データ入力の道具としてよくできてると思うんです。まあ,このシステムを見た人はみんなビックリしますけどね。「こんないい加減なシステムでやるのか」って(笑)。


田中太郎
ソノランブルー代表取締役。
元アップルでQuickTimeを担当していたこともあり,Quick- Timeまわりの知識はピカイチ。最近は編集者に説教することが多い。

──先ほどのデータスーツにしても,MIDIキーボードを使うというのもユニークですが,そのシステムは誰が考えるんですか?

■僕の会社の社長がプログラマーなんで,彼が考えてます。僕は今,新しい会社にいるわけですけど,これからはプログラマーとやらなきゃだめだと思ったんです。CGをつくってると,既製品のソフトウェアではできないことのほうが多いからなんです。
 たとえば,岩井俊二監督の映画「スワロウ・テイル」で蝶をつくったんです。そこで蝶の毛の感じまで出そうと思うと,なかなか市販のアプリケーションだけではうまくできないんですよ。
 市販のソフトっていうのは,すべての作業をオールマイティにできるようになってるんです。実際の作業をするとやりにくいところがある。でも,プログラマーと作業すれば,何かをつくるときに,「今回の仕事はこうだから,このソフトのここを改良して」といってうまくカスタマイズしていける。そういうチームワークがないとダメですね。

──なるほど。僕はこれからのソフトウェアは,平均的なものじゃなくて,ある機能に特化したものがうけるようになっていくと思ってるんです。それをユーザーが組み合わせて使うかたちになっていくと。

■そのとおりですよ。最近はみんな,「いいとこ取り」してますよね。CGプロダクションでも,モデリングはAlias(*5),アニメーションはSoftimage(*6),レンダリングはRenderMan(*7)という感じで。

──普通のCGアーティストはそうやって「このソフトを使って作業する」っていう人が多いですけど,原田さんは以前から,ソフトのユーザーインタフェースについても考えられていますよね。

■みんなが勘違いしてるんですよ。コンピュータのソフトは,車なんかの工業製品と違ってプログラムの羅列なんだから,どんどん変えることができるはずなんですよ。そこがコンピュータの面白いところなんですけどね。日本ではメーカーに文句をいわない人が多いんじゃないでしょうか。米国ではどんどんメーカーにプレッシャーをかけたりしてますよ。
 たとえば,僕はアドビの本社とよくやりとりしてるんですけど,ときどき遊びにきて「どうだ」って聞くから,こっちが何かを指摘すると,その場で本社に連絡してくれるんです。これは1つの例ですけど,米国のほうが「コンピュータは日々変わるものだ」っていう意識が強いですよね。

大会社と代理店が主導になってから
ゲームの「駒」が減っている

──日本では,ユーザーハガキを見ても意見のところに何も書いていない人が多いんですよ。ただ,小さい会社では,ユーザーと密にコミュニケーションをとっているところもあります。

■そういった意味から考えると,ベンチャー企業が面白いですね,ガレージハウスのようなところが。コンシューマ向けのゲームなんかでも,初期の大ヒット作はそういうガレージ系のソフトハウスから生まれたわけだけど,今は代理店と仕事をするようなかたちになってしまった。きちんと企画書を書いて,プレゼンテーションをやって,予算がきっちり決まって。本当はそういうもんじゃないと思うんですけど。
 今のゲームってすごく売れてるんでしょうけど,駒が少なくなってるなと。本当はコンピュータの世界には,「そのソフトをつくった瞬間に上下関係が逆転する」というようなダイナミズムがあるはずなんですけどね。
 インターネットなんかも,初期にわけのわかんないページがばらまかれているところが面白かったんだけど,結局平均化してきてる。どんどんさびしい状況になってきてますね。PCだっていろいろ出てるけど,違いはPentiumのクロック数だけ。これも面白くない。もっと変なものが出てこないかな,と思ってるんですけど。

──同感ですね。ちょっとCGの話に戻りますけど,最近,僕が思うのは,PhotoshopとMacintoshがあれば何かできると思う「フォトショッパー」が多いっていうことですね。

■確かに,パソコンではある程度まで飛躍的に行けるということがありますからね。ただ,それは誰でもできるわけです。そこから上が才能の問題とかになる。ところが,もうひとつその上があるんです。才能があってもアプリケーション開発ができないとダメだったりするんです。
 日本ではそこまでやっている人はほとんどいないけど,米国のCGプロダクションは,みんな平気でそれをやってます。そういう部分をきっちりやっていかないと上に行けませんよね。

VideoPaletteはキーになり得る製品
ほかにもプラグインをつくっている

──原田さんがつくったVideoPaletteは,そういう部分を補うためのツールなわけですよね。

■はい。これからノンリニア系のビデオ編集はどんどん盛り上がって,すごいことになると思うんですよ。そこでムービーを編集するソフトはあるんですけど,加工するソフトにはあんまりいいのがないんです。キーになるソフトウェアがないというか……。だからVideoPaletteをつくったわけです。これはキーになりうると思うんですよね。いずれ,Adobe Premiereとかにもそういう機能は入ってくるんでしょうけど。
 VideoPaletteで気になっているのは,ノンリニア系がほとんどWindows NTだっていうことですよ。映像業界ではそれが定着してしまっていますからね。

──今,ビデオ関連で欲しい機能はありますか?

■まず,ムービーのファイルってデカすぎますよね。簡単にできるっていう割には,ファイルなんてあっというまに何百Mバイトにもなってしまう。やりとりするのも大変ですよね。書き込みできるDVDがMacに標準でつくようになれば,状況は変わってくると思いますけどね。
 映像で世に出るものって,極端にお金をかけた映画のような世界か,極端にプライベートなものしかないんですよ。中途半端なものはない。ライトワンスのDVDが出てきたら,みんながプライベートなものをつくることができるわけですから,これは大変なことが起きる。もしかするとインターネットどころじゃないかもしれないと思いますよ。

──それから,どうしても編集や加工に目を奪われがちですけど,ムービーをプレイする,パフォーマンスするツールが出てきませんよね。

■あ,それはないですね。そこがあるといいと思いますよ。ファイルを再生するとき,画面にたくさん出ていて,そこをクリックすると再生できるとか,そういうのができるプレイヤーが欲しいと思いますね。
 VTRだったら,再生するときに組み合わせるっていうことができないじゃないですか。それがハードディスクとかDVDで,面白いプレイヤーがあればできそうな気がするけどね。

MacでExcelをやってはいけない!
「変なマシン」であるべき

──原田さんはMacintoshに対してどういう考えを持っていますか。

■Macは日本では売れてるんですよね。アメリカでは今は安いです(笑)。
 いや,アップルはスゴいMacintoshをつくればいいと思うんですよ。こういういい方をすると怒られるかもしれないけど,もともと変なコンピュータなんだから,Excelとかやっちゃいけないし,ワープロも打っちゃいけないコンピュータだと思うんですよ。
 Macintoshがビジネスの方向に転換していったときに特徴が薄れていったんだと思うんですよ。もともとグラフィックや音の部分で優れてるっていうのはわかってるんだから,そこに特化していく方向に行けばよかったと思うんですけど。すごいMacintoshがあれば,200万円でも300万円でも買う人は買うんですよ。シリコンはその点,ステータスを保ってやってますよね。僕はMacintoshもそういうコンピュータだと思います。
 僕は自分のそれぞれのMacintoshに役割を決めて使い分けてます。ビデオを取り込むマシンとか,編集するマシンとかって。SGIでワープロを打つ人はいないでしょ? だからいいんですよ。だから,コンピュータに向かった瞬間にその作業を始めるということになるんです。ワープロができたら変なものになってしまいます。Macintoshも同じじゃないですか。
 でも,ジョブズが戻ってきたから,これからはMacでしょう(笑)。みんなにいってるんですよ,「ついに来たゾ,Macintoshの時代が。待ってて良かった」って。
 メチャクチャなものをつくってくんないかなーって思ってるんですけど。



●対談を終えて▼

私がアップルを辞めて,とある場所を間借りしたとき,原田さんがそこにいた。それ以来のつきあいになる。デザイナーでありながら,かなり深いところまでコンピュータ全体について知っていて,そして使いきっている。教授のライブを始めとして,音と映像の融合,CGによるパフォーマンスなど,いつも新しい試みにチャレンジしている点には感心させられる。今後もCGデザイナーのさらに上をいく新しい発想で,コンピュータの使い方を提示してくれるものと期待している。新しい会社(ループドピクチャー)からのツールも待ち遠しいところだ。  (MacUser/Japan)